ソニーワイヤレスコミュニケーションズは個人向けのNURO Wireless 5Gだけでなく、今後は法人向けのローカル5G事業も展開することを明らかにしている
子会社のソニーワイヤレスコミュニケーションズを設立し、2021年11月にローカル5Gへの参入を打ち出したソニーグループ。そのローカル5Gを企業向けではなく、集合住宅向けにブロードバンド回線を提供するFWA(Fixed Wireless Access:固定無線アクセス)に類するサービス「NURO Wireless 5G」を、2022年春に提供するとしたことで大きな注目を集めている。【画像】NURO Wireless 5Gで提供されるホームルーター 傘下に固定ブロードバンドの「NURO」や、MVNOとして展開するモバイル通信サービス「NUROモバイル」などを持つソニーネットワークコミュニケーションズを有しながら、なぜ別会社を立ち上げてローカル5Gを活用したサービスの提供に至ったのか。そしてコンシューマー向けにローカル5Gを活用する狙いはどこにあるのか。ソニーワイヤレスコミュニケーションズの代表取締役社長である渡辺潤氏に話を聞いた。
ソニーグループがローカル5Gの活用に踏み切った背景には何があるのか。渡辺氏はそもそもNURO Wireless 5Gが、ローカル5Gという通信を主体として企画されたサービスとしてではないと話している。 NURO Wireless 5Gではソニーグループが強みを持つエンターテインメントを中心に据えたサービスを提供する狙いがあるそうで、その一部として通信、ひいてはローカル5Gを用いる形になったとのこと。あえてソニーワイヤレスコミュニケーションズを設立したのも、通信寄りのソニーネットワークコミュニケーションズとは違ったサービスを提供する狙いが大きいという。 現時点でNURO Wireless 5Gのサービス内容はあまり明らかにされていないが、FWAとしてサービスの一部に無線通信を活用するのであれば、NUROモバイルと同様にMVNOとして回線を借りてサービス提供するという方法も考えられたはずだ。それにもかかわらず、自らローカル5Gのインフラを敷設するという手間がかかる手段を選んだのはなぜか。渡辺氏は「パブリックな5Gの限界は基地局の距離が遠いこと」がその理由だと答えている。 NURO Wireless 5Gはエンタテインメントなどのコンテンツを重視したサービスになるとみられるが、リッチなコンテンツを遅延なく提供するには、よりユーザーに近い場所に基地局を置く必要があるという。実際、渡辺氏はローカル5Gの活用により、5Gの低遅延を実現する上で欠かせない技術の1つ「MEC」(マルチアクセス・エッジ・コンピューティング)が使えることが大きいと話しており、エンタテインメントを軸としたユーザー体験を考慮し、ローカル5Gの活用が適しているとの判断に至ったようだ。 またNURO Wireless 5Gは当初、5G専用の機器で構成されたスタンドアロン(SA)運用が可能な4.8~4.9GHz帯を用いて運用される。それゆえ、MECだけでなく、ネットワークを仮想的に分割して用途に応じたネットワークを提供できる「ネットワークスライシング」なども活用でき、他社回線を借りるよりもはるかにネットワークの自由度が高いこともメリットに働いてくるだろう。 一般的にFWAのサービスを提供する上では通信速度の重要性が高いことから、4Gとの一体運用が必要でコストがかかるが、より帯域幅が広く、高速通信が可能なローカル5G向けの28GHz帯を活用した方がメリットが大きいように思える。同社が当初そちらを選ばなかったのはコストの問題だけでなく、5Gのネットワーク性能を存分に生かしたサービスを提供したいがためといえそうだ。 そうしたこだわりは端末側からも見て取ることができる。NURO Wireless 5Gは対象となる集合住宅に、専用のホームルーターを設置することで利用できる仕組みだが、このルーターは外部の企業が開発した製品にロゴを付けたものというわけではなく、自社開発したものになるという。 それゆえ、通常のホームルーターにはない機能なども備わっているとのこと。サービス開始前ということもあってその具体的な機能は明らかにされなかったが、ソニーグループが傘下にソニーを持ち、スマートフォンの「Xperia」を手掛けるなど無線デバイス開発の実績もあるからこそ、デバイス側に独自機能を搭載しての差異化ができたといえる。